桶仕込み、当初はやる気、全然なかったんですよ。お酒に木の香りというのが、イヤでね。セーラさんから最初に桶仕込みの話を聞いたときも、私は「いまさらそんな桶なんて」と言った。すると「アナタみたいなヒトがいるから、日本酒業界がダメになる」なんて言われてさ。「ヘンな外人が、ナンなんだよ!」と思ったね(笑)。
うちは戦争中の米不足で昭和18年に廃業し、昭和30年に再興した蔵で、昔ながらの杜氏はおりません。49年に私が継いだころは桶売り(他の酒蔵に売る酒づくり)専門。55年にその仕事が切れ、それを契機に私が船頭となって独自の吟醸酒づくりを始め、「くどき上手」を生みました。
全国新酒鑑評会の金賞目指して、高い山の稜線を踏み外さぬよう進むが如く張り詰めて、吟醸酒ばかりをつくってきたんです。木の香りなんて、酒造りの場にあってはならないもの。迷わずそう思ってました。
――そんな私が、木桶を買ってしまったんです。
蔵人たちは大反対。「社長、なんで蔵に木の香りなんか持って来るんだ」「鑑評会に出品する酒に、木の香りが移るじゃないか」とね。
木桶を買ったのは、桶屋さんに誘われたからです。「キャンセルが出て、買い手のない木桶がある」「よかったら、どう?」とね。半ばつきあいで、ふと買ってしまったという話なの。ただ、いざ蔵に置いてみると、木桶って小っこくても存在感がある。
戦後に建てたうちの蔵は鉄筋コンクリートで、思えば冷たい蔵だったんだな。そこに木桶が来て、ピリピリしてた蔵の空気が少し変わったというか・・。
できた酒は丸みがあって、柔らかだった。そこにごく微かな独特の香りがある。とはいえ、言われないと気づかないほど、微かにだけど。おもしろいものだね。蔵を訪れた大吟醸の取引先に、「今井さん、今冬はあまりピリピリしてないね」とか言われたりしてね。
いやはや、何なんだろう。「木目のよさ」とかいうやつなのか・・こんなこと言う自分に、自分が一番ビックリしてるよ(笑)、ホントにね。
亀の井酒造は、出羽三山の羽黒山と月山を仰ぐ羽黒町にある。記録によれば創業明治8(1875)年。出羽三山神社のお神酒や、参拝客で賑う宿坊用のお酒を醸したのが始まりらしい。2003年冬に初めて醸した木桶の酒は翌春、出羽三山神社お田植え祭のお神酒として奉納された。