桶仕込みの1年目は、驚いたですけどね。醪(もろみ)が入った桶の下を通ると、バナナの香りが、すごくしてね。桶の影響か、の影響か、わからないですが・・。2年目以降は、それほどではなかったけどね。
私が酒づくりの世界に入ったのは、平成8年9月2日です。ええ、日付まで覚えています(笑)。もともと興味があったんですが、うちからすぐ近くにあるこの蔵に、誘っていただいて。蔵にはずっと、小値賀(おぢか)という半農半漁の村(いまは町)から杜氏さんと蔵人が来ていました。蔵から電車と船を乗り継いで5時間ぐらいかな。私のお師匠の近藤三則杜氏も、小値賀の人です。ほんと、私は師匠さんに恵まれました。交替して杜氏になって3年目ですが、近藤さんのあの背中を見て働けたことが、一番よかったかなーと思うんですよ。
引き継いだ大切な技のひとつがづくり。仕上がるのに、丸ひと月かかります。私はその間、朝は生にかかりきり。熱湯を入れた暖気樽(だきだる)を入れて一時間半、そっと動かしながらをゆっくりあたためて。中のお湯が冷えたら入れ替えて、もう一時間。それは世話が焼けますよ。
桶の酒には、この生を使います。ほんとに力の強かです。普通なら、とうに発酵が止むような低温の醪が、桶の中でまだまだ発酵し続けてることもあったもの。生のせいか、桶のせいか――木桶は、沁みこんだものがまた出てくるというイメージがあるしね。そんな意外なところも含めて、木桶をひと言で言うなら「オモシロイ!」かな。洗ったり干したりに、桶はなかなか手間はかかるけれどね。 ――古賀譲治さん(代表取締役社長) 佐賀という地は、うどんのつゆは関西系で甘め、醤油も甘い、味噌も麦味噌で甘いのです。自然、料理も甘くて濃い。酒もそれに負けんように、濃厚で甘みのある酒が好まれます。味わいのある酒がね。うちは30年ほど前から本醸造や純米酒を出していますが、地元では当初、本醸造は「薄い」、純米は「酸っぱい」と言われたものですよ。巷では人気のある端麗辛口の酒なども、「水口の酒」と言われてしまう。佐賀はそんな土地柄なんです。
窓乃梅はその佐賀県で、最も歴史ある古い蔵です。そしてもう、うちの蔵だけなんですよ――生の技術を伝承できたのは。これはうちの親父に感謝しないといかんのです。「生は伝統的な伝承技術で酒の基本だから」「一度やめたら、後世に技術が続かないから」と、ずっと生の技術を引き継いできたんですから。おかげでいま、うちの若い杜氏でもつくれるのです。生や山廃というのは、教科書見てできるようなものじゃないですからね。
蔵の二階にあった古桶を、地元の樽屋の原田さん(職人のページ)に組み直してもらいました。木桶を使った時代と同じ仕込みでやろうと、は生に。そもそも木桶で仕込むなら、濃厚な酒のほうがいいんじゃないかな。生や山廃でやると、こちらが予測できない「何か」が、桶から出てくる面がある。バナナ香もそうでしょ。桶の木肌にうちの蔵ぐせ酵母がくっついて、菌がせめぎあい、酸がいっぱい出て、ゴチャゴチャな酒になるのも、それもまたよし。キレイさを追求する吟醸酒とは違う可能性を見たくて、いまさら桶を引っ張り出したんですから。
密かに目指すところがあるんですよ。木桶をあと数本増やして、2回ずつ醸せば、桶仕込みの本数では日本一の蔵を目指せるんじゃないかなってね。それだけの生をつくるのは大変ですが・・。何しろ桶の酒、ほとんど佐賀県内ではけてしまうんですよ。東京へはほとんど出荷していないし、福岡にさえあまり出していない。地元で飲まれています。
おもしろいものでね。同じ生の酒でも、タンクで醸すと地元ではそんなに売れません。やっぱり、何か違うんだな。不思議な木のもつ力と、蔵つき酵母の相乗効果というか・・。佐賀の人に「旨いなあ、この酒」としみじみ愛してもらえる、旨味のある酒なんです。