
桶仕込み保存会に参加したのは、桶が日本文化のシンボルだからです。桶を見たことのない若者でも、どこか桶を日本の風景の原点というふうにイメージしていますよね。桶仕込みの復活をいい方向で進めていけば、日本酒ルネッサンスの第一歩にもなると思います。
日本酒を紹介するため、よく海外に出かけます。そんなとき、ピンクや黄色の法被(はっぴ)など着てセミナーを開いたら、全然リスペクトされないし、お酒の振興にもなりません。刺し子をほどこした法被とか、やはり「文化を感じるもの」を着るべきです。
しかしそんな前提すら、日本酒をつくる僕たちの側にはなかった。そのことに、海外に出て初めて気づきました。ヨーロッパでワインの醸造元などを訪ねると、昔からの文化を誇りにし、古い町並みも大切に活かされている。その文化あってこそ、酒もあるんですね。
そんな思いから、地元の町並みの再生を仲間と進めているところです。うちの酒蔵は、かつて北前船の寄港地として栄えた港町・富山市岩瀬地区にあります。店がある岩瀬の大通りには、かつての廻船問屋の粋な建物が軒を連ねていますが、老朽化も進んでいるのです。

うちの向かいの元木材問屋の伝統的家屋を修復して、知り合ったそば職人さんに入ってもらい、静かなそば屋「丹生庵」を開いたのが5年前。その並びにある旧廻船問屋の長い土蔵はいまも修復中ですが、ここにはおいしい地酒を揃えた酒販店が店を開き、新進のガラス工芸家と陶芸家が工房を構えました。みんな、「何となく出会った」縁の兄ちゃんたちです。
彼らのように、この地に住み着いて仕事をする若い兄ちゃんが、少しずつ集まっています。かつて船を介して旅の人を柔軟に受け入れたこの港町の文化を、取り戻したいと僕は思うんですよ。いまも岩瀬の大通りでは古い家屋の修復現場をいくつか抱えていますが、その作業を担っているのも、地元やあちこちから何となく集まってきた若い職人たちです。
よく「町並み再生」とは言いますが、建物の外見の再生だけなんていうのはツマンナイわけで、やっぱり建物を活かしてやらないとね。見世物みたいな家や、「何とか記念館」ばかりが並ぶのはイヤなんです。やっぱり兄ちゃんたちが普通に住んで、灯がちゃんと入らないとね。
うちではまだ桶仕込みのお酒はつくり始めていないけど、やがては取り組むつもりです。でも、単に「桶で仕込んだから、桶仕込みの酒」ではなく、桶で仕込んでこそ、ほんとうにおいしくなるお酒づくりというのがあるはずです。そこに、僕は挑戦してみたいですね。