


福島県・奥の松酒造株式会社
遊佐勇人さん(代表取締役)
殿川慶一さん(杜氏・製造部長)

――――殿川慶一さん(杜氏・製造部長)
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桶仕込みの話が来たときは、「果たしていい酒になるかな」と疑問に思ったものです。手入れや温度管理の点で、桶にはわからない面がありましたし・・。木桶仕込みの経験は、私にはなかったんですよ。昭和47(1972)年に私が入社したとき、この蔵では当時最新鋭の設備やタンクで、大きな仕込みをしていましたからね。
いま使っている桶は、古桶の板を削り直し、組み換えてもらったものです。それでも当初は、木のキツイ香りがしていました。桶に塗られた柿渋の香りも混ざったような、複雑な香りでした。吟醸酒の仕込みが終わったら、同じ部屋で木桶仕込みをするつもりだったけど、香りがキツイから場所を変えたほどですよ。
ところが、桶で醸したお酒に、桶の香はほとんど残らなかった。それは予想外でしたね。「これが桶の酒だ」と教えられなければ、飲む人が気づかないほど、香りは微かでした。桶のお酒というのは、特徴がないようでいて、実はある。
ひと口でいうと、やわらかいお酒。複雑で、やわらかい、という感じ・・かな。
「桶仕込みだから、自然に任せる」という考えもあるでしょう。でも私は、桶のよさを一番出せるよう導いてやるのが、私たちの仕事かなと考えたんです。だから冷却装置を使い、温度管理もしました。そして、タンクではなく桶にすると何が変わるかを、見たわけです。
私の実家も蔵元でして、幼いころ桶は身近にありました。麦焼酎の桶に落ち、助け出されたこともあったんですよ。


――――遊佐勇人さん(代表取締役)

木桶仕込みを始めた当初の動機は、話題づくりでした。日本酒をいかに楽しんでもらうか、いつも考えていますからね。ところが、いざ桶で仕込んだお酒を味わってみると、これがオモシロイ。そして、予想外の展開になってきました。
桶仕込みには2本の古桶を使っていて、うち1本はうちの蔵に残っていた古桶を組み換えたものです。うちの蔵の場合、木桶からタンクに替えた時期は、かなり早かったようです。うちの蔵は代々、「新しモン好き」なんですよ。蔵の奥には昭和一ケタものの琺瑯(ほうろう)タンクが残っていますし。私の亡き父も、自動製麹機やステンレスタンクなど最新設備を率先して導入しました。私も、品質の高い酒をつくるため、最新鋭の設備を導入しています。
鑑評会で金賞受賞できるレベルの大吟醸酒を、大仕込みでつくることを可能にすれば、たくさんの人がおいしい酒を飲めるようになる。それが僕らのできる社会貢献じゃないかというのが、うちの蔵のコンセプトなんです。そんなうちの蔵が、「話題づくり」で木桶仕込みを始めてみたわけですが・・不思議なのは、うちの桶のお酒、なぜかヨーロッパでよく売れているんです。
酒をつくる僕らの側にはどうしても、「技術的に高度なもの、キレイに磨かれた酒ほど軽くて飲みやすい」という評価軸がある。けれど、そんな評価軸とは無縁なところに、桶のお酒の複雑な味のよさはあるようです。ワインしか飲んだことがないフランス人には、キレイな吟醸酒より、むしろ複雑な味わいの長期熟成酒や桶のお酒が、歓迎されるようです。
日本でも、かえって日本酒にあまりくわしくない普通の人たちが、木桶のお酒をどう受けとめてくれるか。それが楽しみです。
■ 追記
奥の松酒造が桶で醸した「木桶仕込み純米酒」は、米国で行われたIWSC(The
International Wine and Spirit Competition)2004に出品した全日本酒の中で、最高得点を獲得。公表された味の評価は――「フルーティなはっきりとした酒質を持つ、実に複雑な味わいを持つ芸術品。ヨーロッパ・ラズベリーの味覚、穀物シリアルの蜂蜜のような、豊醇な、コクのある味の美酒」。
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