〒985-0052 宮城県塩釜市本町2−19 電話022-62-4165
昔の方々は、いかにして桶を長く利用するかを考え、ほんとうに桶を大切にしたものです。桶を洗うため横に寝かせるときは、竹の輪(箍=たが)が土間の水気を吸って痛まぬよう、輪より厚い台を下に噛ませる。そのとき桶の形もゆがまぬよう、底板が縦方向になる「タテハ」に揃える。桶を日光で消毒するときは、お日様がすっかり桶の中を照らすよう、桶の向きを小まめに「日回し」する――そうしたことを、仕込まれたものでした。
この蔵へ私が来たのは昭和24年、二十歳のころです。私みたいな新参(しんざん)の仕事は、まずは桶洗い。桶をタワシでこすっては、和釜から運んだ熱湯を、柄杓で桶の内面にからめるようにかけるんですが、慣れていないと、自分が熱湯を被ってしまったりね・・。
桶をある程度乾かしては熱湯をかけ、乾かしては熱湯をかけると、木の匂いも解けるし、しみこんだものや雑菌も出てきます。それから桶を立て、熱湯で満たして「満量湯ごもり」。蓋をして半日ぐらい置くと、ジュウジュウ音がして。木桶独自のアクをさらに出すようなね。
さらに水洗いした桶はいよいよ蔵へ運ばれて、そうしてお酒を仕込んだものなんです。
昭和30年代、木桶は琺瑯(ほうろう)タンクに取って代わられました。木桶の手入れは私も徹底したほうですが、それでも琺瑯タンクに仕込んで貯蔵したお酒は、木桶のお酒よりキレイでした、木香(きが)もないしね。これはいい方向に変わったと思いましたよ。
それがなぜ、いま桶仕込み復活か――勉強になると思うんですよ。琺瑯タンクはサラサラッと洗えばすぐキレイな感じになりますが、気をつけて見ると洗い残しもある。それを見逃せば、酒にも残る。昔の人たちが木桶を毎日毎日、熱湯を被りながら洗った気持ちの基本みたいなものが、(木桶仕込みでは)ありありと、またわかってくるのかなと思います。
それに杉の香りって、やっぱりちょっとはあったほうが懐かしいのかな。うちの桶仕込みのお酒は、つくりも昔ながらの山廃酒母にしたから、濃醇でしょう。そこに木の香りが混ざっていることで、なんとなくまろやかに聞こえるんですかねぇ。懐かしく思ってくださる方、(桶のお酒を)お待ちくださる方が、結構いらっしゃるようですよ。
「浦霞」を醸す佐浦は、創業享保9(1724)年。以来連綿と続いた酒造りの精神をつなごうとの思いを、木桶の名「貳百八拾號(にひゃくはちじゅうごう)」に込めた。木桶仕込みを復活した2004年は創業280年目、お酒の名もそこからつけた。社長の佐浦弘一さんは木桶の記憶はない昭和37年生まれだが、木桶仕込みの復活を「温故知新」ととらえ、大切な文化継承のため始めた。製造部長の平野重一さん(現代の名工)は昭和35年よりここで杜氏をつとめ、現在は若い二人の杜氏を見守る。蔵で唯一、昔の木桶仕込みを知る存在でもある。