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桶コラム

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古くて新しい道:遠山隆吉


 私は酒造り六十年になりますが、桶仕込み酒の復活は初めての経験と言ってもいいでしょう。というのは、若い頃米洗や桶洗いなどの仕事を必死にしている間に、桝一の酒蔵から桶が消えてホーロータンクの時代になっていたからです。

 先輩に聞いても分からないといわれ、まさに未知の世界。正直なところ何十年振りの緊張感を覚えました。が、仕込みが進むうちに、蔵に大桶がずらりと並び、蔵人が酒造り唄を張り上げている昔の光景が目に浮かび、なにか力が湧いてくるような感じがして。

 できた酒を冷で味見したときの感激はひとしおで、早く燗をして飲んでみたいとも思いました。自分で言うのもなんですが、実にいい酒ができました。かすかな木の香りと品のいい味の濃さ。

 蔵の外に出ると雪景色。桝一の新たなる道が始まりました。


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もうひとふんばり
清水作治


 酒の仕込みが始まる前の七月頃から暮れまで、越後や信州の蔵元をまわって、桶や樽の点検や修理をおこなう。暖気樽、半切桶、小杓など、酒や味噌造りに欠かせない道具たちが私を待っている。 ただ味噌屋や醤油屋は塩分の関係か、桶が100年も150年も長くもつ。それに対し酒屋の桶や道具は常に手を入れる必要がある。

 やはりワシらの仕事が続くには酒屋がワシらの技術を使うか否かにかかっているような気がする。だからセーラさんから大桶の注文があったのは嬉しかった。
 それと1997年に桶職人として初めて黄綬褒章を頂いたのも、国がワシらの仕事を認めてくれたという意味で感激したね。そう長くは作れないが、後継者を育てて、もっともっとこの仕事を続けなくては。もうひとふんばりだね。

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小澤順一郎 アホなことではありますが


 桶で酒を仕込むということは、客観的に見れば、物理的、科学的、コスト的にもアホなことです。アホなことではありますがおもしろい。そこで、ちょうど枯れかけていた蔵の裏山の老杉を切って、桶をつくることにしました。

 桶でどんな酒を造るかは、全く決めていません。杜氏には「気楽にやっていいよ」と言ってあります。なぜなら桶仕込みのおもしろさは、「何でも人間の思うとおりにしよう」という意識を端から捨てちまうことにあると私は思うからです。我々酒屋は、「よい酒」を造ろうと願い、微生物を研究します。彼らの働きを我が物とし、「理想の酒」を目指しますが、往々にして微生物管理に神経質になり、その結果、おおらかさを失ってしまいがちです。

 酒造りのある部分を、桶に、微生物に、自然に委ねちまおう――その覚悟こそがいま、新しいと思います。微生物たちを手のひらの上で遊ばせるようにして酒を造る感覚?やってみる価値、あると思いませんか。

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複雑と単調 福光松太郎


 初めて桶で仕込んだ酒の味は、素晴らしかった!キレがあるし、触感が今の酒と違う。複雑味もあります。
私が将来的に目指すのは、単なる「木桶仕込み」ではなく「木桶蔵仕込み」です。微生物の複雑で思いがけぬ反応が出てくる器=木桶を、ズラリと並べた仕込み蔵をつくれば、やがては独特の「家つき酵母」が蔵に棲みつくはず――そこでどんな酒ができるか、楽しみですね。

 もっとも戦前の酒蔵ならば、そうした複雑な微生物環境はごく普通にありました。それが戦後、何でも純粋にするほうへ進み、人工的な衛生管理が徹底され、揃って同じような酵母を使った結果、日本酒の味は単調になり、個性が乏しくなりました。もう一度酒造りの現場に、複雑にして独特な微生物環境を取り戻したい。そこに至るために開く木の扉が、木桶なのだと私は思っています。

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おやじさんとアメリカ人 市村次夫


酒蔵の裏手はせん栽畑だった。しかし冬は、その一角に酒造りの補助的な作業の細工小屋が建ち、我々子供たちの格好な遊び場に変わった。春先になると、その子供天国に大桶が登場する。その年の酒造りが終わり、大役を果たした三十もの大桶がそこに干され、その上を飛び歩いたり、かくれんぼに興じたりと私にとって最高の空間だった。

 昭和三十年代の或る日、毎年酒造りの一員として蔵に来ていた桶屋さんが家に挨拶に見えた。ブラジルに移民するという。子供心にも寂しかった。桶がホーローに変わった時代の出来事だった。

 2000年、桝一は桶仕込み酒「白金」を復活した。アメリカ人取締役の強い熱意で復活した。私は齢七十を超えた大杜氏(桝一では「おやじさん」という)に頼むことに躊躇した。
 しかし彼は米国人女性の要請を承諾した。酒造りは日本文化そのもの。それが異国人の発案で復活したところに新世紀の象徴を感じる。 今後、桶仕込みならではの味を追及し、酒の新たなジャンルとして楽しんでいただけるよう頑張りたい。


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ロマンではない:太田英晴


私の父の代に、当社は木桶からホーロータンクに切り替えました。当時杜氏さんたちは「こんな薄っぺらなタンクで酒なんかできるのか」と心配したそうです。 今回は逆に木桶に戻してみたわけですが、実際に仕込んでみると「案ずるより産むが易し」が実感です。

 桶仕込みの酒の味には、小仕込みらしい品の良さや、濃醇できれいな感じが出ました。これまで高級酒というと吟醸系が大半を占めていましたが、吟醸系ではない新しい高級酒がつくれる予感がしています。

 高級ワインのロマネ・コンティ社も、酒質のために桶で仕込んでいます。もともと私は復古やロマンではなく、よりよい酒づくりのために木桶仕込みを始めました。仕込み自体も自然の力を待つような、長いスパンで物を考える酒づくりにしてゆけたらと思います。

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