桶トーク1:桶と日本文化
記念講演「桶と日本文化」小泉武夫(東京農業大学教授)
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セーラが気づかせてくれた、桶の価値
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  私は、福島県の400年くらい続く造り酒屋に生まれました。
小さいとき一番の思い出は、朝起きると桶(おけ)屋さんが、桶を毎日のように作っているんですね。箍(たが=桶の周りにある、竹で編んだもの)を、非常にリズムカルに叩いてはめていく音が、流れていて。それがいまも忘れられず、耳にこびりついています。

まあ、しかし日本人と桶というものを考えてみますと、生まれたとき産湯(うぶゆ)に入るのが、「たらい」という桶でした。死んだ時に入るのが「棺桶(かんおけ)」、これまた桶でございます。一生が全部桶という、えー、まぁ、「まかせて桶!(まかせておけ!)」っていうか・・。(笑)

そういう世界でしたから、我々は桶っていうものを、忘れてはいけないんです。
そしていま、外国から来られたセーラ・マリ・カミングスさんが、桶をいま一度見直そう、そういうものの大切さを日本人が忘れている――と教えてくれた。

これは非常に反省すべきです。文化の深さというものを、日本人は失いつつある。だから、桶のようなものが、もうどんどん消えていってしまう。そうして消えゆくものに対して、名残惜しさや文化的な価値を感じるということが、いまの日本人にはない。小さいときから、そういう教育を受けていないものですから。

いまグローバルスタンダードとか、何でもかんでもグローバル化するということでやっていますが、食にまつわることや民族の伝統文化というものは、一切、グローバル化されちゃいけない。そんなことしたら、どんな民族だって同じことになってしまう。

ですから我々は、桶のようなモノを見直すというところから、いま一度日本文化というものをもっと大切に考えていくべきです。そうでないと、文化をどんどん消していって、次の世代に渡すものがなくなってしまいかねない。そんな空虚というか、空白な心だけで、我々は一生を終わってはいけないと思っています。

セーラ・マリ・カミングスさんとは、数年前にアメリカで約2週間、講演の旅をご一緒しました。そのとき、このセーラさんの話をジーっと聞いていますと、彼女が日本文化を思う気持ちには、日本人自身より遥かに深いものがあるなと思って、感心をしておりました。そうしたら本日のようなことになりまして、私もほんとうにうれしく、この桶の会を立ち上げる一員になりました。今日はお忙しいなか、集まっていただきありがとうございます。
 
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