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さて、ところで「おけ」という言葉は「桶」と書きますが、これは中国から来た言葉(書き方)です。では、日本の「おけ」という字は、昔はどういう字を書いたのでしょう。これはですね、「麻」と「笥」の二文字、「麻笥」で「おけ」と読みました。
「何でこれでオケというのだろう?」と、私も思いました。調べましたら、江戸時代の新井白石(あらい・はくせき)の書に、麻緒という麻(オ)の糸を入れて運ぶ器=笥(ケ)だとある。桶というのが、そういう発音からきているかどうかは、わかりませんけれどもね。
もっとも、これは比較的新しい話です。ものすごく古い時代からの話ではありません。曲げ物(まげもの)の桶からいえば、もう既に奈良時代の平城宮の後からあった。曲げ物というのは、そんなに大きくなくて、つなぎ合わせのところを桜の木の皮をなめしたもので外からギュッと結わえていた。芸術的ですね。そういうものだったんですよ。
それがずーっと長い間続きまして、いわゆる今日の話でいう桶というものが出てきたのは、ずっと後のこと。とはいえ、私どもの醸造学的観点から言いますと、(曲げ物ではない)桶は、とても古いということになります。
特にお酒とかお味噌とかは、桶の出現が大きな転機になった。桶の出現というのが、まったく日本の食文化を変えてしまったんですから。
私は大学で食文化論をやっております。そして「桶」の話をしまして、学生たちに自分の知っている桶の名前を書かせた。そうしたら、結構知っていまして、「仕込み桶」とか「いしつ」というかご飯をいれる「いびつ」、「風呂桶」などを書いてきました。「水桶」というものもありました。
ところが歴史上出てくる
「桶」というものは、ものすごい種類があって、ざっと100種類を越します。生活物はもちろんですが、お酒屋さんの桶だけでも、大体50あるんですよ。
酒屋でお酒を仕込むところから絞るまで、桶が何種類あるかと、私もリストをつくりました。
まずはね、「はす桶」「踏み桶」、それから「清桶(すましおけ)」「甑桶(こしきおけ)」「半切桶(はんぎりおけ)」「_桶(もとおけ)」「暖気樽(だきだる)」「仕込み桶」「試桶(ためしおけ)」「荷桶(におけ)」「狐桶(きつねおけ)」――これは狐口(きつねぐち)とも言いますけど――、それから「滓引桶(おりびきおけ)」。おもしろいことに「夏囲い桶」、つまり夏の間に酒を囲っておく桶もあれば、「冬囲い桶」っていうものある。
こういうふうに、季節によっても使う桶が違っている。お酒を造る工程の中でさえ、もう十いくつの桶が出てきますが、実はその他にも酒屋の用具は、「灘(なだ)の酒辞典」なんて本など見ますと、ものすごい種類の桶が出てくる。
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