桶トーク1:桶と日本文化
記念講演「桶と日本文化」小泉武夫(東京農業大学教授)
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杉とお酒と桶の、長くて深い関係
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  日本という国は山紫水明の国でして、ものすごく雨が多く降ります。雪も降ります。1回の雨で400mm、500mmという、ヨーロッパの国の半年分の雨が降っちゃうこともあるんですね。すると、そこに浸透した水っていうのは、どのぐらい過ぎてから山から清水として湧いてくるか。この間、富山和子さんと対談したら「大体、日本の水というのは、地面に染み込んでから出てくるのに75年かかる」という。

それで水はその間に、様々な木々を育んでくる。しかも日本という国は、北海道も本州も四国も九州も、面白いように真中が馬の背中のように盛り上がっている。だから、ここにものすごく雨とか雪が降りますと、そこに素晴らしい桶の原料ができてくる。

特に杉(すぎ)がそうですね。神社に行きますと、お宮さんには大体、杉が多いですね。もちろん檜(ひのき)もあります。九州のほうに行きますと、檜が多い。もちろん檜も、桶の材料になります。まぁしかし、杉は酒や桶と非常に関係していて、桶というと、大体ふつうは杉です。

では、杉と桶とはどういう関係があるのか。実は、神様がいる。奈良の大神(おおみわ)神社という神社の御神木は、杉でございます。有名ですね。そしてここでは必ず、その杉を使った桶で仕込んだ酒を神様にあげる儀式を、今でも行っています。ここの巫女(みこ)さんが踊りを踊ると、そこに出てくるのが、「活日命(いくひのみこと)」。これは誰かというと、いまの酒造りの技師長、つまり杜氏(とうじ)さんの神様、ご先祖様と云われているんですが、それが出てきて祝詞(のりと)をあげるんです。その内容が、非常に面白い。

大神神社の「杉の舞」といいますが、《杉は神の聖なる御神体の一部である。そこで、その御魂が宿るところで酒を造るってことは、とっても大切なことで神様が一番喜ぶ》というんですね。御神木である杉の木を使うと、杉には神が宿っている、神が、御魂が、霊が宿っている。その杉で酒を造ったものを神社に捧げることで、神様も喜ぶし、皆にはすばらしい神からの教養が与えられる、こういうような祝詞を歌って、お酒を捧げるんですね。

このようなことを考えますと、例えばお酒屋さんのところに行きますと、必ず新酒が出来た時に杉玉(すぎだま)って言うのを飾ります。あれは後から、「杉玉というのは、新しいお酒が出来た時の目印なんですよ」などと言いますけれども、実際にはあれもやっぱり、「神が宿る玉」なんです。霊(魂)なんです。だから、丸いんです。そういう意味からすると、杉と酒と桶というのは、非常に深い関係がある。もう、奈良時代からあったんですね。
 
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