桶トーク1:桶と日本文化
記念講演「桶と日本文化」小泉武夫(東京農業大学教授)
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桶で、オシッコから火薬をつくった日本人
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   それから、いまひとつ。海の近くでも、桶は非常に活躍しているんですよ。日本人は、いま一つの見方からすると海洋民族ですからね。海で使われた桶っていうのは、大体20種類くらいあります。皆さんよく知っているので、海女(あま)さんが使う「海女桶(あまおけ)」がありますね。それから「浮桶」、海藻をいっぱい入れておいてそこで発酵させる桶もあるんです。これもまたすごいんですよ。

 それと、桶が驚くべき仕事をした例が、一つあります。世界中、私は実際に中国にもポルトガルにも行って見てきたけど、桶を使ってどんな民族もやらないとんでもないことをやったのが、日本人です。それは桶を使って、人間の糞尿、特に小便を発酵させまして、そこから爆薬を、火薬をつくったんですね。これは、桶がなかったら出来ません。

どういうことかと申しますと、これは富山県の五箇山(ごかやま)というところの話ですが、農家の囲炉裏(いろり)の下に、大きな穴を掘る。横幅2間(約3.6メートル)といいますから、相当大きいですよ。そこは冬でも囲炉裏の下ですから、地熱で暖かいでしょ?そこに、村人のション便をみんな、ドットット、ドットットと放り込んじゃう。鶏のウンコも、ポッポッポ、ポッポッポと捨てちゃう。刈った草も、バカバカ入れちゃう。

そうやって、2年から3年置いておいたものを掘り出してきて、大きな桶の中に入れて、グルグルかき混ぜると、その発酵物が水で抽出される。その抽出されたやつを、いま一度布でこして別の桶に入れます。

それから今度は灰桶といって、モノを燃やした後の灰ね、あれを水に溶かしたものを、長い桶に入れるんです。この長い桶、私が小さいころ、うちにもありました。「水桶」「砂桶」とも言うんですが、酒の水をこすときに使う、寸胴(ずんどう)の長い桶です。その「砂桶」に、囲炉裏や竈(かまど)、風呂場なんからから持ってきた灰を入れて、「灰桶」にしちゃうんです。そしてその桶に、上から水を流す。そうすると、灰を通って出てきた水は、強烈なアルカリ性になる。それを、さっきの別の桶の中に注ぎ入れて、大きな釜の中でかき混ぜながら煮詰めて行く。

これに火をつけると、ドガーン!と爆発するんです。それは火薬です。いつからつくられたかというと、慶長10年(1605年)。ちょうどポルトガルから種子島に鉄砲が来て、鉄砲が残されたんだけれど、火薬がなくなった頃から日本人は発酵法によって、小便から火薬をつくっていたんですって。

その化学的な原理は何かというと、実は、桶で小便をためておいて、それが発酵してアンモニア(NH3)になってくるんです。それを、どんどん土の中へ、囲炉裏の下の巨大な土穴に入れるわけです。そうすると、そのアンモニアは土の中の微生物によって酸化されて、過酸化窒素(NO3)になります。それに水(H2O)がつくと、硝酸(HNO3)になります。硝酸発酵します。

そして大量に硝酸が出たら、それを桶の中に入れて、かき回して抽出して、その濾したのに灰を入れると、灰汁桶から出てきた灰の水溶液は、水酸化カリウム(KOH)ですから、そうすると硝酸とカリがくっついて硝酸カリウム(KNO3)になります。これが、桶でつくった爆薬。小便から爆薬をつくったのは、世界中で日本人だけなんです。しかもいまから400年前、化学的な基礎なんて何にもなかったんですよ。桶があったから、できたんです。日本人って、すごいなぁと思いますね。
 
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