●モデレーター
米倉誠一郎
(一橋大学イノベーション研究センター教授)
●パネリスト
梅原真(デザイナー・プランナー)
上芝雄史(株式会社ウッドワーク
藤井製桶所代表取締役)
セーラ・マリ・カミングス
(株式会社桝一市村酒造場取締役)
●友情出演
小泉武夫(東京農業大学教授)
野中ともよ(三洋電機代表取締役会長)
辰巳琢郎(俳優)
小坂憲次(文部科学大臣)
以上、登場順
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米倉
先ほどの小泉先生のお話ではないんですが、お酒の中には東京ドームの観客分ぐらい、いろいろな雑菌が――いや、菌が、いるわけですから。だから、酒屋からおりてきた桶でお醤油や味噌をつくったら、また「家持ち菌」のおいしいものができそうな感じがするのですが。梅原さん、桶でつくったものって、何が違うと思います?
梅原
分かりやすいのはね――ワインというものを想像したとき、広がる風景がものすごくありますね。先ず、ブドウを収穫している畑。そこにブドウを入れる桶みたいのがあって、それを持って行って浅い桶に入れて、女の子たちがはだしでブドウを踏んでる。それをもう一度大きな発酵槽(はっこうそう)に入れて、発酵させた後に、樽(たる)で熟成させる。その、樽の風景。ワインがあったら、そこまで言えますわね?
お酒の世界はどうかというと、ほんとうは収穫のシーン、その前の田植えもシーンに入ってこなくちゃいけないんだけど、もうその風景はなくなってきている。桶というモノも、ないらしい。ステンレスやホウロウのタンクになっていて、それだと温度を0.01度のレベルまで管理できるらしいですけれども・・・。コンピューター管理のもとに、微生物も管理されている。つまり、これはもう工業製品であると。
で、これはソムリエの田崎真也さんのお話の受け売りですが・・フランスも1970年代にはドンドン近代化の波に乗って、ワインの発酵槽(はっこうそう)はコンクリートでつくって、その内側をガラスやエポキシ樹脂でコーティングしたりしていたと。
それが1980年代になって、「ちょっとおかしいぞ?」と。「ここまでやったら、アカンのちゃうか?」と。・・というので、1980年代の終わりには桶に戻すところが出てくるんです。
つまり、
フランスがすごいって思うのは、後ろにバックする力を持っているということで。
日本では、行きつくとこまで行ってしまって、だから「この世の中、どうもヘンだ」と、みんな思っていますよ。だから今日、ここにこれだけの人が集まっていると思うんですけれども。
フランスは、「このまま行ったらヤバイぞ」というので、テークバックするというか、後ろに引き返す、その力を持っている。その力はつまり、文化の深さやないか?
その文化の深さが、この日本にはないんか?――と。
先ほど小泉先生は「(日本には文化の深さが)ない」って言いましたけどね。「少しバックをしようよ」というのが、実にフランスのうらやましい文化だと、僕はこう思っていますんで。どうもその、桶が象徴している日本。日本がどう生きたらいいのかも、桶が象徴している、すごくヒントになってると思いますね。
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上芝
いまのようなお話を、私も聞いたことがあります。
野沢菜漬けのメーカーさんが5年前に新工場を建てられて、コンクリート槽の内部をエポキシ樹脂で仕上げたのですが、その結果、漬け物の味が変わってしまったと。それで今年は、そのコンクリートの中にさらに木桶を据えて、そこで野沢菜を漬ける。つまり、もとの木桶に戻ったんです。
野沢菜漬けには乳酸菌発酵がともなうそうですが、それにどうやら木桶の、下がつぼまっているあのシルエット、形状がいいらしいんですね。
上から重石(おもし)をかけるときに、コンクリートの(縦のシルエットが)真っ直ぐな槽だと、3倍くらいの石をのせないとダメなんですって。ところが木桶なら、その3分の1ぐらいの重石を載せれば、横からの力も底に伝わって、均等に圧縮されるらしいんです。桶の、形状によるメリットという話を聞いたのは、その野沢菜漬けが初めてですね。
米倉
やはり蓄積された知恵ですから、その形というのも、かなり経験則でつくられているんでしょうね。
それにしても梅原さん、さっきおっしゃった「後ろに戻る力」が文化だって話、実はすごく感動してまして。おとといくらい、日本経済新聞の「経済教室」に川勝平太さん(かわかつ・へいた=国際日本文化研究センター教授)が同じようなことを書いてました。《経済力だけで、尊敬されはしない》とか、《日本みたいになりたいって思わせる力って、何だろう?》とかね。
日本の文化というのは、基本的にはモノがすごく少ない。そのなかで、「もったいない」というひと言で、みんなが価値観を共有できるような文化があった。ところが、その日本社会がいきなり豊かになってしまったとたん、我々にはほんとうに共有できるものがなくなってしまったんじゃないか――と?
だからそういう意味ではもう一回、後ろに戻って、多少高くても木でつくった桶で仕込まれたモノを食べよう、飲もうと。つくり方が難しくても、コンピューター管理できなくても、そういう価値観を守ろうという、「後ろに戻る力」って結構、大事ですよね。なんか、みんなそれを求めているような気がするんですよね。
セーラ
古くて、新しい道。「後ろに戻っている」んじゃない。「前に進んでいる」んです。
今日は、全国から駆けつけてくれた桶屋さんが何人かいますから、この場を借りて、ご紹介したいので。桶屋さん、ちょっと立っていただきたいな。
上芝
そうですね。私の知る範囲、かなりの方が来ておられます。
米倉
桶屋さん、ちょっと立ってください。みなさん、注目!(拍手)
(※全国からご来場の桶屋さん・・・栃木県栃木市の樽匠・萩原幹雄さん、千葉県野田市の高梨木槽製作所・高梨博美さん、愛知県知多郡の吉澤商店・吉田和正さんがその場で立たれ、会場から盛んな拍手を受けました。このほか会場には、秋田県大館市から工藤商事・工藤信夫さん、真由美さんご夫妻も来られていました)
米倉
さて、上芝さん。勇気いるんですね、やっぱり? 「戻る」っていうのは。
上芝
うーん、そうでしょう、勇気いるでしょう。「戻る」っていうのは。批判力も必要だけど、勇気が一番必要だと思いますよ。
米倉
やはり、コストもかかるんですか? 桶に「戻す」と。
上芝
いや、あまりコストは・・・。現在、例えばステンレスの新品タンクと比べた場合に、では、桶が高いかというと、それほど金額的に差はありませんけれどもね・・・。
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