桶トーク2:パネルディスカッション
●モデレーター
 米倉誠一郎
 (一橋大学イノベーション研究センター教授)

●パネリスト
 梅原真(デザイナー・プランナー)
 上芝雄史(株式会社ウッドワーク
 藤井製桶所代表取締役)
 セーラ・マリ・カミングス
 (株式会社桝一市村酒造場取締役)

●友情出演
 小泉武夫(東京農業大学教授)
 野中ともよ(三洋電機代表取締役会長)
 辰巳琢郎(俳優)
 小坂憲次(文部科学大臣)  
 以上、登場順
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日本で醸してこその酒づくりを、考える時代
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米倉
梅原さん、さっき言われた「後戻りする力」の話、その前の質問があったんですけど・・桶のお酒って、やっぱり飲まれてみて、おいしさが違うんですか?
梅原
違うと思うんですけどね。まず、状況をイメージするわけですね。
一方に、ステンレス・タンクの息ができないところで、温度も調整されている微生物ちゃんたちがいる。一方で、微生物ちゃんたちが自由に木の奥に「入っとこ」と入っていけたり、出てもいける桶があると。もちろん、悪い微生物ちゃんもいますけど・・。

そのやりとりのなかで「醸す」というのは、一定の時間を使って、何かが生まれてくるということですよね。だから、ステンレスで「醸す」なよと・・・。ステンレスの中で「醸す」というのは、「醸す」という字を使ったらイカン、みたいな・・。「醸す」というのは、木の容器でしか使われん・・たいなね。頭の中ではそういうイメージがある。


だけど、じゃあ「おいしいですか?」と言われたら、実は、いや〜、どっちもどっちというのがありますよ(笑)。

でもワインならですよ、南斜面でブドウがとれて、それを女の子が踏んでっていうイメージまで、味の中に託せるというかね・・。日本の酒には、そういうのがないじゃないですか。ステンレスの中で0.01℃とか言うて、吟醸の何とかと言っているでしょ?
全然、楽しむところをなくしてしまったのが日本酒・・・ああ、すみません、今日は日本酒協会の方々もいらっしゃる(笑)。やっぱり日本酒ファンを取り戻さなイカンというのは、こういう部分ではないですか?

米倉
わかりました。ま、ひと言でいえば、「気(木)のせい」だということですが(笑)、これは大事だよね。悪い微生物と、よい微生物が戦っていると思うだけでも、いいよね。

 ところで、僕は言いたい。福島県の酒蔵の「奥の松」さんが、桶のお酒で賞をもらったんですよね? 「奥の松」の遊佐さん? どこにいます?・・とにかく、イギリスで何とかいう国際的なコンペティションに桶のお酒を出したら、賞をもらったんですって。

その話ですごく面白いのはね、桶とか樽でつくったワインとか飲んでいる欧米の人たちにとってみれば、これまで出品されてきた日本酒は、非常に画一的だったと。ところが今回、桶で仕込んだお酒を出したら、「あっ、これはデリケートだ」って言うんですって。

いや、確かに吟醸酒なんかは、桶に仕込んでいなくてもおいしいと思うんですよ。だけど、この「気のせい」はというのは結構、大事ですよね。
セーラ
ここで世の中の流れを考えてみると、日本酒は日本のモノなんですが、日本だけでつくる時代ではありません。いまではアメリカでも、中国や韓国、オーストラリアでもつくられています。コンピューター化された、ボタンを押すような形で酒をつくるのであれば、コストダウンという面では、日本国内でつくっていても勝てないんですね。

やはり、付加価値のある日本酒、付加価値のある日本である必要が、あると思うんです。そこで、職人さんの技と食文化の力を合わせると、ぜったい勝てる、ぜったい武器になると思っているので。それ、無視できないものだと思います。
米倉
なるほど。それは我々の分野で言いますと、コンペティティブ・ストラテジー(競争の戦略)っていうやつなんですよ。確かにいま、カルフォルニア米っておいしいんですよね。だからあそこで(酒造好適米の)山田錦をつくって、コンピューターで酒造りのレシピを持ち込んでしまえば、さらには同じようなことを南中国でやれば、そこそこおいしいものは必ず出来るんですよね。

なるほど・・それに打ち勝つために、わざわざアメリカから来て、セーラさん、ご指導ありがとうございます(笑)・・。でも、これは別にお酒だけの話じゃないよね。我々がどういう付加価値のあるモノをつくるのか。その点で、まさに苦しんでいる三洋電機(代表取締役)の野中ともよさんがいますが(笑)、コモディティーじゃ勝てないんですよ、中国にはね。――今度の電池はいいですね。エコループ。今度使いたいと思いますが(笑)。

 何か、コモディティーじゃないものをつくる、それに価値を見出して・・。我々いつも言っているんですけど、日本には経済力が500兆円あるんです。それがフランスには、たった160兆円しかないんです。その日本の500兆円のうち300兆円が、我々の最終民間支出です。

どういうことかといいますと、フランスとイギリスを合わせただけの経済力が、これは輸出とか製造業とかではなくて、日本での我々の飲み食い、着るモノとか、そういうサービス産業、文化の中で消費されているお金なんです。
ですから、もっと豊かに生きることは、絶対にできるはずなんです。我々の経済価値と付加価値、満足、「気のせい」。こういうものをまぜる、重要な機会ですよね。

梅原
あのね、「ようこそジャパン」という宣伝がありますよね。いま話に出たフランスは、人口6000万人に対して毎年、7000万人の観光客が来る。一方、日本を訪れる観光客は、毎年約500万人。これを1000万人に増やすために、国がキャンペーンを始めました。
その宣伝「ようこそジャパン」に、ほんとうに絵葉書みたいな風景ばかり並べていて、「なにやってんのか」と僕は思うんですね。

そこで、自分ならどんなCMにするかというと・・まぁ、禅寺で小泉首相が座禅を組んでいる。坊さんが来て、後ろの所を「パシッ」って叩く。ほな、「痛いっ!」って頭を押さえながら、「あ痛ッ!」て言いながら、「こんな国へ、ようこそジャパンへ」みたいなね(笑)。
米倉
いいっ!(笑)
梅原
僕は、プランナーですからに。要するにメンタルな部分を一個も言わんと、舞妓(まいこ)はん出して、伊勢の海女(あま)さん出して、富士山出して、「ようこそジャパン」はやめてよと。いまさらね。

つまり、桶を出して欲しいのね。日本のメンタルな部分に、来て下さい。この前アメリカに行って話したら、日本には何もなくなってしまったと。OKなのは3つだけ。お寺と秘湯――いわゆる鄙びた温泉ですわ、それと和食。この3つしかないって。だから・・。
米倉
アメリカの彼らが「興味がある」とか「よい」といったりするモノね?
梅原
「もう、それしかなくなったね」って言われるんですよ。だからそうじゃなくて、今度は、彼らが知らない日本のメンタルな部分をね・・。日本のお酒がね、アメリカでは和食ブームだから、売れていますよ。しかし、桶を見せてない。そりゃ見せられない、桶でお酒、造ってないもん。だから、これからは桶を見せて輸出するべきですよ。「こんなんで、造ってんねんで〜」ってね。
米倉
桶もいいですけど、要はソフトウェアですよね。
梅原
そうそう、そこそこ。そこがないんですよ、「ようこそジャパン」には。
米倉
いいこと言いますね。「あ痛ッ!」と。「カーツッ!」っと。
梅原
「あ痛ッ!」と、首相の叩かれる日本・・これならものすごい、これは日本に1億人くらい来ますよ、お客さんが(笑)。
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